札幌高等裁判所 昭和39年(ネ)242号 判決
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〔判決理由〕被控訴人主張の請求原因事実は、控訴人の認めるところである。
(自白撤回の可否について)
もつとも、控訴人は、原審第四回および第五回口頭弁論期日において請求原因事実を自白しながら、第八回口頭弁論期日に至つて、右の事実認否を変更し、自白を撤回した。これにつき民事訴訟法第一三九条第一項の適用を考察するに、右自白撤回のなされた口頭弁論期日は既に証人三名、双方本人計五名の訊問が完了し、訴訟は判決をなすに熟していた(原審が、その後爾余の証拠調をすることなく、第九回口頭弁論において弁論を終結していることはこれを物語る。)のであり、自白撤回に伴う新主張の審理には新規の立証を要したのであるから、右自白撤回は、原審の段階において、時機におくれた防禦方法であり、そのため訴訟の完結を遅延せしめるものであつたといわなければならず、そして、この事情は、訴訟が控訴審に係属するに至つたことによつて変更をみるものではない。けだし、控訴審は続審であるから、時機におくれたか否かは、第一審と通じてこれを判断すべきであるのみならず、もし上訴することによつて当然この点の判断が変更されるのでは、前記法条の趣旨は常に上訴によつて潜脱されることになり、法条は事実上空文に帰することとなるからである。従つて、残る問題は、右の提出の遅延が、控訴人の故意または重大な過失に由来するものと認められるか否かに尽きることとなる。
そこで、右の点について証拠を按ずるに、控訴本人の当審における供述によりいずれも訴外本谷憲慶の作成にかかると認められる乙第六号証および第七号証、原審における控訴本人作成の昭和三八年一二月(日付なし)付同三九年一月四日受付の答弁書および被告(控訴人)訴訟代理人作成の昭和三九年一月三一日付同日受付の答弁書ならびに当審における控訴本人の供述および弁論の全趣旨によれば、控訴本人は、原審第一回口頭弁論期日に欠席し、答弁書が擬制陳述されたが、その答弁書は控訴本人が美幌簡裁の太田書記官に訴状を示して相談した際、下書きして貰つたものに基いて代書人が作成したものであつて、控訴本人は当時自分への請求と有限会社マルズミヘの請求とを区別していなかつたので、問題の点について自白し、単に債務額のみ争う趣旨の陳述を記載したのであり、また、その後大野弁護士に訴訟委任するに当つても、それに先立ち、訴外本谷に作成させた被告(控訴人)側の言分、立証等を記したメモを同弁護士に交付したので、同弁護士もこれに基いて訴訟追行上、請求原因事実を認めて抗弁を以て争うこととしたが、漸く昭和三九年九月頃になつて甲第三号証の記載の趣旨の検討に当り、初めて個人債務か会社債務かの争点に気が付き、そこで、その次の期日である昭和三九年九月一一日午前一一時の第八回弁論期日に至つて自白撤回が行われたのであつたことが認定できる。これによれば、問題の自白撤回の時機がおくれたことは、控訴本人ないし訴訟代理人の重大な過失に由来するものであつたと言わざるを得ない。故に、この自白撤回は、これを許すことができない。(伊藤淳吉 臼居直道 倉田卓次)